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映画「百花」とユニバーサル ミュージック

現在公開中の映画「百花」。
ご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。

スペインで開催されたサンセバスチャン国際映画祭でシルバー・シェル賞(最優秀監督賞)を受賞したことでも話題になりました。

劇中で菅田将暉さんとそのパートナー役である長澤まさみさんが演じるキャラクターは音楽レーベルに勤務しています。

今回はユニバーサル ミュージックと映画「百花」とのかかわり、作品に登場するアーティストKOEについてご紹介したいと思います。

川村元気長編初監督作品「百花」

これまでに『告白』(2010年公開)『モテキ』(2011年)『君の名は。』(2016年)を筆頭に数多くの映画プロデュースに携わり、『世界から猫が消えたなら』『億男』など小説家としても活躍する川村元気氏。

自身が2021年に刊行した小説を元に菅田将暉さん・原田美枝子さんが主役を務めた、初の長編監督作品『百花』。

認知症によって「記憶」を徐々に失っていく母親、ずっと忘れられない「記憶」を抱えながら生きているその息子の心の葛藤を繊細に描いた作品です。

これまで『君の名は。』におけるRADWIMPSや、『バクマン。』(2015年)におけるサカナクションを筆頭に、音楽と密接な関係を持ちながらストーリーが展開していた川村氏の関わった作品同様、今回の作品でも音楽が重要な役割を果たしています。

ヴァーチャル・アーティスト「KOE」の誕生

なかでも印象的なのが、菅田さん演じる葛西泉と長澤さん演じる香織が劇中でデビューまでの道のりを築いていくヴァーチャル・アーティスト「KOE」の存在です。

映画のストーリーに華を添えるだけではなく、主題歌である「Hello, I am KOE」も担当。さらには派生してEP『Hello, I am KOE』も発表しています。

実は、この「KOE」の誕生にあたりユニバーサル ミュージックの邦楽レーベルEMI Recordsが深く関わっていたそう。

作品に携わった川村監督など関係者に作品やアーティストKOEについて語っていただきました。(文中敬称略)
 
遡ること2019年頃、川村監督の脚本執筆作業が終盤の頃からアイデアを交換していたそうです。EMI Recordsの担当・海老沢が振り返ります。

海老沢「以前は洋楽部門に所属していたのですが、川村さんとはその頃からのご縁もあり『百花』の主題歌のお話を頂きました。 作品のイメージにあわせてアーティストを何組か紹介させて頂いておりました。」

「KOE」を通して伝えたかったこと

原作では「KOE」に値する存在は人間で描かれていました。

川村元気監督「この映画は“記憶を描く”作品なので、過去のヒット曲などの記憶を集積させることで作り上げられるヴァーチャル・ヒューマン・アーティストを描いてみようと考えました。
原田さん演じる葛西百合子が徐々に<記憶>を失っていく一方、ヴァーチャル・ヒューマンは<記憶>を埋め込まれていく。どちらが人間らしいのか、記憶を集積して作った音楽が<いい曲>として、多くの人の<記憶>に残るものになるのか?ということを、映画を通じて伝えたかったんです。
世界にはすでに多様なヴァーチャル・アーティスト(VTuberに代表される)が存在していますが、それとは明らかに異なる佇まいをみせるKOE。誕生まではかなりの時間を要しました。
まず、世界中のモデルやミュージシャンなどの顔写真を集め、どういうヴィジュアルなら日本のレーベルからデビューさせて説得力があるのかを検証するために、ありとあらゆるモンタージュを作成しました。」 

海老沢「実は『Hello, I am KOE』のMUSIC VIDEOの監督も川村さんなんです。全編CG作業を要するという物理的な作業期間という事もありますが、4分に満たない主題歌『Hello, I am KOE』のMUSIC VIDEO制作期間で、もう1本映画が撮影できたのではないか?と思うくらい時間をかけて丁寧に制作して頂きました。」

いっぽう、KOEのサウンド面では、藤井 風やSIRUPなどを手がけているプロデューサー・Yaffle氏がメインで担当した作品。

エレクトロニックがメインでありながらもギターやドラムなど「人間的な音」を絶妙なバランスでミックスしたサウンドと、川村監督曰く「無感情に聴こえていたものが、次第にエモーショナルになっていく」というヴォーカルが、これまでの音楽では体感したことのない不思議な余韻を与える楽曲に。その作業は、ユニークなものだったそうです。

Yaffle「今まで携わってきたプロジェクトは、すでに知名度のある方ですとそのイメージに沿うものを、また新人の方であってもそれぞれ音楽的背景があるから、それを尊重した音作りをしなくてはいけない。でも、KOEにはそういう背景がまったくなく、ゼロから構築できたので、面白かったですね。
ヴァーチャル独特の無機質さはなく、かと言って人間的すぎない。微妙な立ち位置的なサウンドをここで表現できた気がします。これはいろんなところにセンスを張り巡らせていないと完成しなかったはずのプロジェクトであり、かつ新たな音楽を作る楽しみも与えてくれたものになりました。もし今後もKOEが続くのであれば、次も参加させていただきたいですね。」

海老沢「これまでも色々な映像作品と、タイアップを通して向きあってきました。今回『百花』という作品と出会い、今までには無いほど作品や監督と密接に関わらせて頂くことができました。監督が求める音楽とはどういうものなのか?ということをとても深く考えさせられました。そして川村さんの音楽に対する熱い思いを今まで以上に身近で感じることが出来、今までにないとても刺激的な時間でした。」

川村監督も、充実したコラボレーションだったと振り返ってくださいました。

川村元気監督「海老沢さん、今村さんをはじめ、音楽が好きな方々と共に映画音楽を作る時間はとても刺激的でした。EMI Recordsを含むユニバーサルミュージックは、邦楽洋楽の境目が良い意味でない会社なので、今回のKOEのプロジェクトにおいてもYaffleさんをはじめとした気鋭のアーティストたちと一緒に世界中で聴いてもらえる曲を作っていけたと思っています。せっかく誕生したアーティストなので、他にプロジェクトでも活躍していただけたら。映画はサンセバスチャン国際映画祭に出品が決まりましたが、KOEも世界中で愛されるアーティストになってもらえたら嬉しいです。また、Doulさん、映画音楽も手がけた網守将平さんを含め、KOEに関わったミュージシャンやレーベルの方々と、またいつか共演できる日を楽しみにしています。」

映画「百花」とともにアーティスト「KOE」にも是非ご注目ください!

[ Text by 松永尚久 ]


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