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imase×ユニバーサル ミュージック社長対談 飛躍の裏側を語る

コロナ禍にTikTokへの投稿をスタートし、2021年12月メジャーデビューを果たした、新世代アーティスト・imase。2022年8月にリリースした「NIGHT DANCER」は海を越えたバイラルヒットとなり、今年6月にはアジアツアーを成功させました。音楽業界における「育成・契約」「ヒットの作り方」「海外展開」に変革を起こし続けるimaseと、ユニバーサル ミュージック社長・藤倉の初対談をお届けします。

imaseがユニバーサル ミュージックを選んだ理由

――まず、imaseさんがユニバーサル ミュージック(以下、UM)と契約に至った経緯を教えてください。

imase:2021年5月頃にTikTokを始めて、一番早くに連絡をくださったのがUMでした。投稿して1週間後くらいにはDMをいただいたと思います。

▼TikTokに最初に投稿した楽曲「n1ght」

当時は右も左もわからない中、音楽制作も動画投稿も「一緒に考えていこう」という話をしてくださって、最初の段階から色々と教えていただけたことがすごく助かりました。まずは育成契約からスタートして、10月頃に「Have a nice day」や「逃避行」で大きな反響をいただいたことで、12月にメジャーデビューしました。

【imase】Have a nice day(MV)

藤倉:今はDIYで音楽を作って配信までできるから、音楽業界内では「レコード会社も事務所もつけずに自分でやる」というアーティストもいるんだけど、どうして我々とやることを選んでくれたの?

imase:当時は自分で曲を作りきることもできなかったですし、配信の仕方もわからなかった状態で、細かいところまで丁寧に教えてくれたのがUMのスタッフさんでした。今もそうですが、アレンジャーをはじめ様々な方と接点を持たせてくれたり、ライブに関しても「もっとこうしたほうがいい」とちゃんと伝えてくれたりするので、UMのスタッフさんと一緒にやっているからこそ自分は早く成長できていると思っています。

――当時、他のレコード会社からもたくさん声がかかっていたそうですね。

藤倉:改めて、UMを選んでくれた理由を聞いてもいいですか?

imase:対応が一番丁寧でしたし、すごく細かく教えてくださったんですよね。最初はコードすらわかっていなかったのですが、そういうところから細かく教えてくれる人は他にいませんでした。メッセージも、コピペの文章を闇雲に送りまくっている感じではなく、真摯だったところもすごくよかったです。

藤倉:imaseさんのその答えは一番嬉しいです。UMの社訓は「人を愛し、音楽を愛し、感動を届ける」で、あまりにも綺麗に聞こえてしまうかもしれませんが、そこに「愛」が2回出てくるわけです。「愛情を持つ」と言葉で言うのは簡単だけど、行動で示すことは難しい。それでも、ただ気持ちを送るだけではなく、具体的な行動でサポートしてあげることが大切だと思っています。我々のやるべきことはアーティストの力になることで、imaseさんのスタッフが当時から役に立ってくれていたという話を聞いて、すごく嬉しい気持ちになりました。

――アーティスト契約に関して、会社としてはどういった環境作りに注力されていますか?

藤倉:役職や年齢関係なく誰かが「このアーティストはいい」と強く信じた人と契約することが、純粋に一番いいなと思っています。「売れそうだから」「誰かがいいって言ってるから」「YouTubeの再生数がたくさん回ってるから」とか、そういうことで契約することはやめたいなと。

imase:声をかけてくださったタイミングはそこまで動画が回っていたわけでもなかったので、本当にありがたかったですね。

――社長としては数字的な実績があるほうがハンコを押しやすいと思うのですが、個々人の感覚やアーティストを信じる気持ちを大切にされるのはどうしてでしょうか。

藤倉:自分が現場の頃、「音楽業界で影響力のある人の紹介だから」ということで、実際はよくわかっていないアーティストを引き受けてしまい、何年も結果が出ないというケースを見てきたんです。今で言えば、YouTubeが回っているからといって必ず売れるわけでもないじゃないですか。

imase:たしかにそうですね。DTMがかなり進化しているので、ラフなデモでも投稿できますし、それが広がることもありますよね。逆に、バズってはいないけど才能を秘めている人もいると思います。

藤倉:目には見えない、その先の可能性を感じられることが、そのアーティストと契約するかどうかを決める時に大切だと思っています。デビューのタイミングについては、アーティストごとに違いますね。しっかり時間をかけて準備する人もいますし、アーティストの状態が整っていればどんどん世の中に届けていきます。大切なのは、周りにいるスタッフが「いける」と思っているかどうか。迷いがある状態で世の中に出すことは、お客さんに対してもアーティストに対しても失礼になってしまいますから。

世界的ヒット『NIGHT DANCER』の成功要因

――「NIGHT DANCER」は世界的ヒットとなっています。その功績については、どのように受け止められていますか?

藤倉:韓国で記録的なことが起きているし、驚いたのは、現地のアーティストやクリエイター、そしてユニバーサル ミュージック コリアのスタッフもみんな「imase!」って興奮しているんですよ。韓国でのimaseさんへのリスペクトの高さを感じます。『Melon Music Awards 2023』(韓国最大級のK-POPアワード。imaseは「J-POP Favorite Artist」を受賞した)に一緒に行かせてもらった時も、韓国の中で受け入れられていることを強く感じました。アジアツアーの台北公演も見させてもらったけど、みんなすごく喜んでいるんですよ。

imase:本当にありがたいですね。「NIGHT DANCER」をリリースしてすぐは、国内でも少しは反響がありましたが、すごくバズっていたわけではなくて。そのあとに韓国のアーティストの方が踊ってくださったり、ジョングク(BTS)さんにもカバーしていただいたことで、韓国で聴いていただけるようになって、そこから逆輸入的な感じで日本でもより聴かれるようになりました。楽曲を作った時は海外で聴いていただけることを想像していなかったので、本当にびっくりしましたね。

【imase】NIGHT DANCER(MV)

――バズった時にどのように動くかがとても大事だと思うのですが、「NIGHT DANCER」は長期的に愛されるグローバルヒットとなり、それをきっかけにimaseさん自身もアジアツアーを実施できるほどの人気を獲得しました。そういった成長・成功の背景には、どのような要因がありましたか?

藤倉:まずはimaseさんの人柄ですよね。担当スタッフと話すと、音楽的なセンスはさることながら、「人柄が素晴らしい」とみんな口を揃えて言うわけです。人柄だけで契約はできないんですけど、やっぱり人柄がいい人は応援したくなる。会うとみんなが好きになってしまうところは、imaseさんのすごさだと思います。

韓国をはじめアジアのUMスタッフは、imaseさんがすごく協力的であることに感謝していました。アーティストが海外へ行くとなると少し構えちゃって、「これはやれません」みたいなことも出てくると思うんですけど、imaseさんはそうではない。仕事としてやらされている感じもなく、自然と仲間が増えている感じがimaseさんっぽいですよね。

――今、UM全体として、日本の音楽の世界展開についてはどのような考えをお持ちでしょうか?

藤倉:UMはアメリカの会社ということもあり、昔は日本を含めた各国で「アメリカやイギリスの作品を売りなさい」と言われていました。そこから時代は変わって、今、韓国語やスペイン語の音楽も世界中でヒットしています。本社であるアメリカの人たちも、たとえばテイラー・スウィフトが作品を出せば全世界で聴かれるように、どの国のアーティストの作品も言語の壁を越えて世界に届けられるかもしれない、というふうに考えるようになりました。そうやってチャンスを感じてもらえるようになったことで、各国において「もっと協力してあげるよ」といった体制ができていると思います。

しかも以前は、「世界で売れたいなら英語で歌うことが必要」と言われていたんです。でも今はそうではなくなりました。imaseさんも英語で歌うのではなく、日本語を大切に歌っていこうと思っていますか?

imase:そうですね。日本語で歌うことの可能性はすごく感じます。日本語ならではのことをやるのが一番面白いのかなと思いますし、日本語の独特な響きや日本のカルチャーが受け入れられていることも感じます。あと、日本語の歌詞には繊細さや奥深さがあって、音から入ったとしても、あとから歌詞を調べるとさらに意味を知れるような楽しさがある。それも日本語の歌詞の強さかなと思っています。

――本国からも日本発の世界的ヒットを求められる中で、会社としてはどういったことに注力されているのでしょうか?

藤倉:まずは他国のストリーミングやSNSでどんな反応が出ているか、その兆しをちゃんと掴んであげられることが多くなったと思います。今は、そもそもスタッフの中で「自分の担当するアーティストを成功させたい」という意識が強く、どの国でどんな反応が出ているかにいち早く気づくことができて、それをもっと聴いてもらえるように他の社員やいろんな国で連携を取れるようになっています。

imase:それこそジョングクさんがカバーしてくださった時は、スタッフさんからすぐに「これはすぐにSNSで反応したほうがいい」と連絡があって、そこで上げた投稿がすごく伸びました。何か出来事があった時に早くアクションを取れるのは、レーベルも事務所も同じUMであることも強みとして大きいと思います。

「TikTok」と「テレビ」への考え方

――特に今年に入ってから、imaseさんはテレビ露出も活発ですよね。音楽番組や朝の情報番組だけでなく、『踊る!さんま御殿!!』『A-Studio+』『トークィーンズ』など、さまざまなバラエティ番組にも出演されています。それができることもDIYではなくUMに所属されているからだと思うのですが、そもそもテレビ露出に関してはどのような考えがありますか?

imase:「楽曲」と「人」を一致させる機会として、テレビは大事なのかなと思います。あとは「お茶の間感」といいますか、よりライトな方々に知っていただける機会としてテレビは強いなと思いますね。音楽チャートや流行りの曲をチェックする人は世の中に意外と少なくて、音楽アプリで聴かないという人もたくさんいると思っているので、そういう方々に知ってもらえる場所でもあるのかなと。

藤倉:そう思います。ただ、いい作品ができていない状態で視聴率のいいテレビに出ても、何も起こらないんですね。「どうしてもテレビに出たい」と思っていても、順番を間違えると本当にもったいないことになってしまうし、「次もまた出てください」と言われなくなってしまう。「たくさん見られればいい」というものではない中で、imaseさんの場合は、しっかりとクリエイティブや人柄を増幅させられたと思います。

【imase】Happy Order?(MV)/ マクドナルド タイアップソング

――仕事が多岐にわたって忙しい時期でもハイペースでショート動画をSNSにアップされていますが、動画の企画や撮影については、スタッフのみなさんとどういった連携を取られていますか?

imase:日々コミュニケーションを取っていますね。たとえば反応がよくなくなってきたり、少し飽きられてしまったなと感じたりした時は、「舵を切って別の投稿スタイルをやってみよう」ということも話し合います。

撮影・編集に関しては、自分の部屋で撮っているものは自分で撮って、最近は編集だけスタッフさんにお願いしています。もともと自分の部屋で作った音を自分の部屋から発信していたので、今も「部屋から届ける」ということは自分のスタイルとして大事にしていますね。

藤倉:聞くのが怖いんですけど……今年1月31日をもって、私たちの会社とTikTokの契約が1回解除となりました。3か月ほど時間をかけて、お互いの考えをしっかりと合わせた上で新たな契約を結ぶこととなりましたが、そのあいだ、TikTokから出てきたimaseさんからTikTokを奪ってしまったことにすごく胸を痛めていました。

アーティストのみなさんにはご心配をおかけすることになりましたが、imaseさんは、「TikTokをやれないんだったら、ReelsやYouTube Shortsをやりましょう」と、スッと障壁を乗り越えてくれたという報告を社員から受けたんですね。実際、あの時はどんな感じだったんですか?

imase:突然のことだったので、びっくりはしました。

藤倉:ごめんね。

imase:いえいえ全然! 僕だけじゃなくてスタッフさん全員、TikTokで聴いてもらえるようにしたいと思っていたと思うんです。でも仕方がないし、そこで止まってしまっても時間がもったいないので切り替えました。逆に、他のプラットフォームで新しいバズり方が生まれる可能性を見つけられるチャンスなのかもしれないというふうに思っていましたね。

藤倉:あの時はユニバーサル ミュージック グループとして、アーティストへのリスペクトや楽曲、クリエイティブへの対価についての考え方に相違があったんです。あとは生身の人間が作るものとAIが作るものの安全性などについても見解が異なりました。そのため、一旦契約解除したのですが、目線が合ったとこで再契約に至りました。

一緒に叶えたい夢

――今、藤倉社長が感じていらっしゃるimaseさんのアーティストとしての新しさやポテンシャルについて聞かせてください。

藤倉:自分が、ちょっと力むというか「肩肘張ってやるぞ」みたいなタイプだったので、imaseさんを見た時に新しさを感じたんですね。自然体で、しなやかで、軽やかで、でも心の中には秘めたる想いがある。今日お話しして、私たちと一緒に歩むことを選んでくれて本当に嬉しいなと改めて思いました。あと、社員が信じたアーティストともっともっと一緒に成長していきたいとも思いましたね。

――今後、一緒に叶えたい夢を教えてください。

藤倉:imaseさんも思っているかもしれませんが、「NIGHT DANCER」の次の代表曲をしっかりと作って、「imaseの作品なら全部応援する」というファンをもっと作れるようにサポートしていきたいですね。それを日本以外でもできたらなと思います。

imase:ありがたいことにライブの規模が大きくなっていたり、アジアツアーをさせていただいたりする中でも、やっぱりもっとヒットする曲をたくさん作りたいなと思っています。ずっとステップアップし続けられるアーティストでありたいので、楽曲制作もライブも日々のSNSも頑張っていきたいです。

藤倉:UMを使って何かやってみたいことはありますか?

imase:海外アーティストとのコラボはやりたいですね!

藤倉:7月にグローバル会議があって、本社があるLAに行ったんですよ。その時にドジャーズの球場にも行ったんですけど、日本語のシティポップがかなり流れていたんですね。日本で「アメリカでシティポップが聴かれてますよ」って聞くと「へえ」で終わるかもしれないけど、本社の人からも「今シティポップどうなの?」と聞かれるくらいなんです。松原みきさん、山下達郎さんの話とかが出てくるけど、imaseさんは2020年代のシティポップの人じゃないですか。今の人でやれたらすごくいいから、向こうからも「やりたい」って言われる気がしてきました。これからもっともっとたくさんの人がファンになってくれることを確信しています。

imase:頑張ります!

[ Interview & Text by 矢島由佳子 / Photo by 関口佳代 ]