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【社員インタビュー】伝統と革新、音楽レーベル EMI Records マネージングディレクターの見つめる先

ユニバーサル ミュージックの邦楽レーベル「EMI Records」のマネージングディレクター・岡田 武士は、デジタル配信の黎明期からさまざまな新しいヒットの形に携わってきました。多様化するリスナーと音楽との接点について、レーベルのトップに話を聞きました。

音楽×デジタルの開拓者。着うた市場から学んだこと

岡田「父の影響もあって幼いころから洋楽に親しんできました。自然とアメリカのヒットチャートに詳しくなり、よく友達に『最近おすすめのアーティストは誰か』と聞かれていましたね(笑)。自分の好きなアーティストをみんなが好きになってくれ、その輪が広がっていく感じが楽しかったように思います」

ユニバーサル ミュージックの多くの社員がそうであるように、音楽に強く影響を受けた原体験を持つ岡田。しかし、その後の彼のキャリアのキーワードとなる“デジタル”に関して、入社当時はほとんど知識がなかったといいます。

岡田「入社した当初はCDショップの営業担当でした。その後、1年も経たない内に当時できたばかりのデジタル商品を扱う部署に転属することとなったのですが、知識もなかったので最初は戸惑いましたね。音楽を売るということは変わらなくても手法はガラリと変わる。当時扱っていた着うたの配信フォーマットやデジタルユーザーの購買行動まで幅広く勉強しました」

データでリスナーに直接音楽を届ける。岡田が戸惑いつつも向き合った課題こそ、いま、ストリーミングで音楽を楽しむことが珍しくない時代にも通じる経験を得るきっかけとなりました。

岡田「配信サービスを運営する企業の窓口担当になりました。自社のアーティストや作品を定期的に提案する業務でしたね。当時もすでに多くの人が携帯を肌身離さず持っている時代で、いつでも新しい音楽にアクセスできるという環境の変化は大きかったと思います。日々、音楽の間口が広がっていく感覚を得ていました」

このころ岡田の所属レーベルでは、GReeeeNの「愛唄」や青山テルマの「そばにいるね」などのダウンロード販売がミリオンセールスを記録。チームメンバーとともにデジタル配信におけるノウハウを持った若手の社員として徐々に認められることになりました。
5年ほど配信担当を務めた後、邦楽のレーベルに移ってアーティストの宣伝やプランニングを担当することになります。

岡田「通常だとメディア向けのプロモーション業務などを経験した社員が配属されるポジションでしたから、デジタル畑だった自分の異動は珍しい出来事でした。しかしこれからの時代、自分のこれまでの経験がアドバンテージにもなるはずだという自信もありました」

当時、担当したのは少女時代やC&K。遠距離恋愛を歌ったC&Kの楽曲「アイアイのうた~僕とキミと僕等の日々~」では、単なるミュージックビデオではなく、男女のリアルな遠距離恋愛を描いたドキュメンタリーコンテンツを作成し、宣伝に活用する手法を企画しました。

岡田「ちょうどSNSを活用したプロモーションが注目されはじめてた頃ですね。アーティストの特性や、どんなリスナーに届けたいのかをイメージして常に試行錯誤していました。 自分では決して宣伝や企画そのものが得意というわけではないと思っています。こういうふうに自分が音楽と触れることができたら、曲を好きになったりアーティストのファンになったりするかもしれないと、リスナー体験をイメージして考えるのが好きであり得意だったんだと思います」

リスナーを第一に考えるという思考は今も続いているといいます。
その後デジタルのセクションレーベルでの制作業務などのほかにも新規事業立ち上げにも挑戦。経験の幅を広げ、2018年1月、34歳でEMI Recordsのマネージメントディレクターに任命されます。

伝統的レーベルで求められる役割

岡田「まだまだ若手の自分が歴史・伝統のあるレーベルのトップに選んでもらったことは、デジタルの取り組みも含めて新しい視点を求められたからだと思っています。数字の目標だけではなく、従来の標準的なキャリアでは得がたい成果を生み出さなくてはいけないと覚悟しましたね」

就任当時、日本の音楽市場にはストリーミングサービスの波が押し寄せてきていました。

ユニバーサル ミュージックのなかでも特に歴史のあるレーベル。日本市場では当時まだまだ普及に向けての活動も必要だった時期で、自身が何をするべきなのかを岡田は就任当初から考え続けていました。

岡田「単純にやり方を変えればいい、という話ではないんです。伝統あるレーベルの良さをどう生かすかが最も重要。長い歴史のなかで大勢のアーティストや先輩たちが素晴らしい楽曲を送り出してきました。すでに世に出た曲がこれからも大勢の人に聴かれ、伝えられていかないと意味がないんです」

実際、岡田が就任した直後に取り組んだのは、アーティストや所属事務所などにストリーミングサービスで作品を聴いてもらえるように話をすることでした。

岡田「当時、ストリーミングサービスに楽曲を配信しているアーティストは増え始めてはいましたが、まだまだ様子見、というアーティストも少なくありませんでした。 今のCDの売り上げに響くかもしれないという不安もあったと思います。ストリーミングサービスには新しいリスナーにたくさんの楽曲を知ってもらえるという利点がある。ファンが増えることでアーティストに返ってくるものがあると信じ、作成した資料を手にあちこち提案に行きました」

2018年以降、EMI Recordsでは松任谷由実や椎名林檎、その他にもレーベルを問わず、ストリーミングでも多くの邦楽レパートリーが聴けるようになり、音楽ファン以外からも注目を集めました。

最近では、松任谷由実が2022年にデビュー50周年という大きな節目を迎え、記念のベストアルバムは、CDセールスでも50万枚を超えるヒットアルバムとなりました。1970年代から2020年までの6年代連続でチャートの1位を獲得した初のアーティストです。
このアルバムは、CDセールスのほかにも収録楽曲「Call me back」のMVをAR技術で作ったり、配信ではApple Musicが採用するドルビーアトモスの空間オーディオに対応するなど常に新しい試みを続けるアーティストのこだわりが詰まった作品になり新しいファンを含め広く支持されました。

第一線で活躍し続けるアーティストの進化を支えることが、レーベルの大切な役割のひとつでもあります。

岡田「セルフプロデュースで成功するアーティストも増えてきました。我々から声をかけることはもちろん、アーティストからもユニバーサル ミュージックを選んでもらわなければならないシーンが増えてきています。どのようなキャリアを歩むのか、担当と一緒にどのような取り組みができるのかなどさまざまな角度で提案し、長いアーティスト人生を一緒にやっていけるパートナーかどうか見定めてもらう必要があります。契約する以上、自分たちもアーティストと一緒に成長していく必要がある。片思いではだめで、アーティストとレーベルが相思相愛でないと走り切れないと思っています」

こうした姿勢は、アーティストの契約だけでなく普段のアーティストとのコミュニケーションでも変わりません。

岡田「キャリアのあるアーティストだからこうしなしなきゃいけないとか、新人だからこうしなきゃいけないということはあまりありません。我々はあくまでサポートする立場であり、常にそれを意識して接することが大事なんです」

加速する時代の変化。対抗策はレーベルを越えたシナジー

幅広いジャンルのアーティストが所属するレーベルならではのこれまでの経験だけでは知識が及ばない部分もあります。

岡田「ロックバンドからアイドル、K-POPそして最近だとMori CalliopeのようなバーチャルYouTuberもいる。担当はそれぞれのジャンルに集中すれば良いかもしれませんが、レーベルの責任者としてはそうもいきません。判断が難しいことに出くわすときもありますね(笑)」

アーティストによってはリスナーの年齢層もバラバラ。加えてSNSの多様化により、予想もしないところから火がつき、ヒットが続々と誕生する時代になりました。一人ひとりがアンテナを張りめぐらせていても限界があるような状況に岡田は新たな組織として2020年に横のつながりをさらに強化するための組織「レーベルズマーケティング」の設立を提起します。

岡田「コロナ禍の直前に全盛を迎えたストリーミングサービスでのマーケティングを強化していくための組織です。社内には複数のレーベルがありますし、それぞれが培ったノウハウをシェアすることが可能になりました。当社の強みは、大勢のアーティストと仕事を通じて大量の経験値があること。成功例を担当チームしか知らないのではあまりにもったいないですからね。外の情報を集めるうえでも効率的です」

コロナ禍でのリモートワークも部門の取り組みを後押ししました

岡田「入社2年目でデジタルを任されたときから、挑戦を後押ししてくれる文化を感じていました。やりたいことをやらせてもらえる会社だという印象はずっと変わらない。ユニバーサル ミュージックの良いところですね」

変化のさらに先を見つめて

岡田「時代が変わっても音楽会社やメジャーレーベルの役割というのはそれほど大きく変わっていないと思っています。新しい才能を見つけ、一緒に曲を作り、より大勢の人に届けること。本質は不変であり普遍です。もちろんツールやプラットフォームが増えたことでセルフプロデュースのハードルも下がっていますが、メジャーレーベルの宣伝や制作の力は依然として強みであり続けています」

メジャーレーベルとしての強みをアーティストの才能とかけ合わせることで、ヒット・流行を生み出してきたユニバーサル ミュージック。その目は国内市場だけでなく海外へと向き始めています。

岡田「子どものころから聴きなじんだ洋楽は、僕にとってキラキラした世界であり続けていますし、これからは自分たちがそこにしっかりと入っていきたいですね。すでに海外でヒットを飛ばすK-POPアイドルは言語の壁を打破しつつあります。韓国語をはじめ英語以外の曲がアメリカでも聴かれることは珍しくありません。テクノロジーが進化し、ツールが国境を越えられる時代となったことそのものが大きなチャンスだと感じますね」

2022年には、先述のMori Calliopeとメジャー契約し、世界展開を視野にいれたアーティストとの取り組みもスタート。ツールが国境を越えるからこそ、さらなる知見を欲しています。

岡田「リスナーは情報を取りにいくのではなく『浴びている』んです。その状態が心地よくなっているからこそ、スワイプで次々とコンテンツを切り替えられるTikTokも人気です。大事なのは最初の数秒で惹きつけること。そして適切な関連動画が紐づくようにすること。昔だったら街中で何回も聴く曲に関心を持つようなイメージでしょうか。ツールやプラットフォーム、市場の特性を見極め、どうやったらより多くの人に見つけてもらえるかを考えています」
岡田「音楽の聴き方の変化とデジタル市場そのものが成長していくなかで、たまたま仕事を任されたからこそ今の自分があると思っています。あの時代に若手だったからこそ、時代の変化の0.3歩ぐらい先を意識する環境を与えてもらうことができた。だからこそ、今、後輩たちに伝えているのは、培ってきたノウハウではなく、自分がどんなタイミングで何をしてきたのか、そのときにどんな悩みを抱え乗り越えてきたのかという、時代の変化に対する向き合い方なんです」

ツールやサービスの進化によって音楽体験はガラリと変わりました。しかし、時代の変化は止まりません。

これまでに自分が果たしてきた役割を客観的に捉えている岡田だからこそ、デジタルの第一人者というイメージを越えて、時代の変化に対応する組織としての強さをもたらす存在になっていくことでしょう。
( Text by PR Table / Photo by 杉浦 弘樹 foto.Inc )

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