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【社員インタビュー】アーティストと伴走するA&Rの覚悟とプライド

アーティストの発掘から楽曲制作のチーム編成、宣伝までを統括するA&R(Artist & Repertoire /アーティスト&レパートリー)と呼ばれ、アーティストの最も近くで制作をサポートする“裏方”です。

邦楽レーベルのA&Rとして大勢のアーティストを担当してきた池田安寿は、「アーティストの人生の一部を背負う」覚悟が必要な職業と話します。

大きなプレッシャーに比例するA&Rの働きがいを聞きました。

アーティストの人生を共に背負う

「A&R(アーティスト&レパートリー)」と呼ばれる音楽会社ならではの仕事は、才能のあるアーティストを見つけて契約するサイニングと、契約したアーティストのために楽曲の企画提案や制作サポートなどを行なっていきます。
 
池田「コンセプターであり、ブランドマネージャーだと自覚しています。アーティストの一番の魅力は何なのかにひたすら向き合い、その魅力をどう伝えればヒットに繋がるのかを想像・予測し、計画を実行していくんです。アーティストが世の中に認知されていくための道筋をつくることがA&Rの仕事だと思っています」
 
音楽会社として楽曲のセールスヒットを生み出すことは至上命題ですが、池田は「単に作品が売れた数=ヒット」だとは考えていません。
 
池田「ひとりでも多くの人に作品を届けること、心を豊かにすることを心がけています。社内でもよくヒットの基準とは何かという話になることもありますが、僕はここから、感動を届けることこそがヒットの本意なのだと解釈しています」
 
そこには制作の過程での話し合いなどで、アーティストと意見が食い違うことも少なくないといいます。
 
池田「特に楽曲づくりの段階でアーティストと意見が対立してしまうこともあります。そんなとき、相互理解を求めることだけが正解ではありません。アーティストの意見も尊重しつつ、客観的な立場からの意見としてきちんとアーティストにも伝えて、納得してもらうこともA&Rには必要な能力だと思っています」
 
アーティストは作品を購入してもらうことで収入を得て生活しています。

ヒットが出るかどうかは、アーティスト本人の人生を大きく左右することにもなります。

ただし、ヒットを生み出す要素は数多くあり、偶発的なものもありますが、その仕掛けの一端を音楽会社が担っているのです。
 
池田「責任の大きさを理解したうえでアーティストに対峙するのが我々の仕事です。アーティストの人生を背負っていくのだという覚悟を持つことが、この仕事で最も大事なことではないでしょうか」
 

新人発掘に不可欠な“熱量”

仕事の醍醐味のひとつが新人アーティストの発掘です。

池田は2021年から、邦楽レーベル「UNIVERSAL J」の制作本部の部長として後進の育成も担っていますが、目に留まる新人アーティストのサイニングを自らも積極的に行っています。

最近では「ヨルシカ」のメジャーデビューを担当しました。
 
池田「インディーズで活動していたヨルシカのセカンドEPを聴いたとき、大きな才能に感動したことを覚えています。すぐに交渉をスタートをするべく連絡をしたのですが、当初、彼らはメジャーに興味がなく、直接会って話すまでの道のりは簡単なものではありませんでした」
 
池田は、既存のメディア露出からヨルシカのYouTubeチャンネルのコメント欄まで可能な限りの情報を収集し、どのような提案であれば一緒に仕事をすることができるのかを考え抜いたといいます。

何度もマネージャーを通し提案を行ない、アーティストと実際に対面を果たすまでに半年以上の時間がかかりました。
 
池田「音楽配信プラットフォームの多様化によってメジャーレーベルと契約しなくても全世界へ音楽が配信できるようになった反面、インディーズから爆発的なヒットを生み出すアーティストも少なくありません。でも、制作力や宣伝力、海外を含む業界ネットワーク、アーティストの長期的なキャリアなど、まだまだ音楽会社が担える役割というのは大きいと思っています。アーティストにそのメリットを伝えるためにも、僕らA&Rが一番熱量を持った人間でなくてはなりません」

アーティストとの出会いの糧

池田も音楽好きが講じて業界に飛び込んできたひとりです。

東芝EMI(現・ユニバーサル ミュージック)にアルバイトで入社し、そのままプロモーターとして、メディアなどを廻って作品のプロモーション業務を担当していました。

担当としてまだ駆け出しの時代に宇多田ヒカルの作品の大ヒットを目の当たりにしました。
 
池田「シングルCDが250万枚も売れたんです。翌年に出したアルバムは900万枚。とにかく楽曲の力がすさまじく、ラジオのパワープレイにも次々と取り上げられました。USENの営業所で楽曲をかけてもらうと『今の歌手はだれ?』と問い合わせの電話がひっきりなしに入ってくるんです。20年以上経ったいまでも、あんなことはそうそう経験できることじゃなかったんだなと思いますね」
 
音楽の力とアーティストが持つ魅力を世の中に伝える醍醐味を知った池田は、自らがヒットの立役者となるべく、その後もいくつものアーティストのプロモートを担い、経験を積んでいきます。
 
その後、ユニバーサル ミュージックへ入社、独自の音楽性を伝えるために「Hip-Pop」という造語を作るなどブレイク直後の mihimaru GTなど、レーベル所属アーティストのプロモーション業務を担当していました。
 
その後、A&Rとして当時流行の兆しを見せていたK-POPアーティスト「BIGBANG」の国内デビューなどを担当しました。
 
池田「BIGBANGのコンサートにはじめていったときの衝撃はすさまじかった。何だこれは?という驚きですね。新しい音楽に敏感であり、深いインプレッションを受けられることもA&Rの素養だと思っています」
 
池田は現在、制作部長でもあり、後進にも様々なアーティストの出会うことで、自分なりの感性を磨いく経験を積んでほしいと願っています。
 
池田「いつだって、新しい感性は若い人のなかから生まれてくるもの。上司や諸先輩に自分が自由にさせてもらったように、僕も担当それぞれの価値を信じてなるべく任せるようにしているんです」

絶対に見失いたくない音楽の本質

若手A&Rへ期待をかける池田が意識するのは、音楽業界の変化の速さです。
 
池田「ストリーミングも普及し、さらに今ではNFTやメタバースなど新たな技術が音楽の楽しみ方をさらに広げようとしています。A&Rはそうした時代の潮流についていけるトレンド感覚も持ち合わせていなくてはいけません」
 
ただ同時に、時代に流されることなく固持しなくてはいけないものがあるといいます。
 
池田「音楽の本質というのは絶対見失いたくない。それは、いい曲を作ってリスナーへ届けることです。才能を探し出すことも、その才能に誰もが気付けるようにすることも、人生を豊かにするような素晴らしい音楽を届けたいというポリシーが根っこにあるんです」
 
長年、池田はジャンルにとらわれることなくその時々に求められる音楽を届けてきました。

特定のジャンルや音楽性にこだわりをもつことなくフラットにいられることが自らの長所と自負しています。
 
池田「たとえば自らが強いこだわりを持って楽曲制作を行うタイプのアーティストなら、主観的になりすぎないようトレンドやリスナーの反応を踏まえた客観的な意見を伝えるようにしています。そして、ときには適切なクリエイターと引き合わせることでより良い作品を作るサポートに徹する。アーティストのクリエイティブも時代に合わせて変化することも必要です。時代時代の新しい才能たちとともに、大勢の人が心から良いと想える音楽をこれからも作っていきたいですね」
 
ときにアーティストと意見を闘わせることもあるA&Rという仕事ですが、池田のように音楽への深い愛情を軸として持つことが、アーティストと協力して素晴らしい音楽を生み出すための秘訣なのかもしれません。

( Text by PR Table / Photo by 杉浦 弘樹 foto.Inc )