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新時代のオーディオ「Dolby Atmos (ドルビー・アトモス)」とは?

最近、「ドルビー・アトモス」や「空間オーディオ」という言葉をよく耳にするようになりました。ビリー・アイリッシュやBTSなどポップスターたちがドルビー・アトモスで新曲を録音したり、Apple Musicがドルビー・アトモスの配信を始めたり。このドルビー・アトモスとは一体何なのでしょう。

音に包まれるような広がりと臨場感!

これまでステレオで音楽を聴く時は、右と左の2つのスピーカーから音楽を鳴らしていました。その場合、音は前方から聞こえてくるだけです。ドルビー・アトモスとは音に独自のミックスを施すことで、音が上下左右、背後からも聞こえてきてくるのです。

まるで音楽に包まれているような広がりを感じさせることから、ドルビー・アトモスは「空間オーディオ」「3Dオーディオ」と呼ばれることもあります。これまでドルビー・アトモスは映画館の音響としては広く使われてきましたが、それが今では音楽の世界に広がっているのです。

現在、ユニバーサル ミュージックにはドルビー・アトモスでミックスできるスタジオが2つあります。デジタル統括本部スタジオ&アーカイヴ部のマネージメントをしている高木忠は、ドルビー・アトモスを音楽で使う魅力をこんな風に説明します。

高木「アトモスでミックスされたライヴ盤を聴くと、まるでコンサート会場にいるような臨場感が味わえます。ミックスの仕方によっては、ステージ上に立つアーティストのすぐ横で歌声を聞いているような体験ができるんです。アトモスを映画で使う場合は、映像に合わせて音を配置していくのですが、音楽では自由に空間を作り上げることができます。例えばドラムの音がぐるぐる回りながら空に上がっていく様子を、リスナーに体感してもらうことができるんです」

空間をリアルに感じさせるドルビー・アトモスは、音楽を「体験」できる新時代のオーディオ。遊園地のようにリスナーを音の世界で遊ばせる(音の世界を旅する?)こともできるし、まるで目の前で演奏しているような親密な空気を生み出すこともできるのです。

ドルビー・アトモス化で新しく生まれ変わる旧作

また、過去の作品をドルビー・アトモス化することも可能。最近では松任谷由実さんのベストアルバム「ユーミン万歳!」の収録曲がドルビー・アトモス化されましたが、そうすることでこんな利点があるそうです。

高木「アトモスでミックスすると音のディテールが明確になるんです。ステレオの場合、2つのスピーカーの中でいろんな音が混じり合った状態でしか再現できませんが、アトモスは楽器の場所を自由に動かすことができる。ステレオでは大きな音の背後で隠れしまう小さな音を動かして、しっかり聞かせることができます。これまでの技術では聞こえなかった音が聴こえる、というのは、アーティストにとって嬉しいことだと思いますね」

旧作のドルビー・アトモス化はリミックス的な作業で、デジタルリマスターで音がクリアになるのとは少し違って、聞こえ方が変わるのだとか。ファンにとっては、大好きな名作の新たな魅力を再発見できるチャンスなのです。

ユニバーサル ミュージックのドルビー・アトモスのスタジオの特徴

では、ドルビー・アトモス化ができるユニバーサル ミュージックのスタジオには、どんな特徴があるのでしょうか。スタジオ&アーカイヴ部のスタジオ部のリーダーとして、スタジオに直接関わっている山田忍にも話を訊いてみました。

山田「ドルビー・アトモスを高い精度で再現するためには、スピーカーが最低でも8つ必要だと言われています。そして、そのスピーカーを部屋に的確に配置しなければならない。当社のスタジオには、全部で15のスピーカーが配置されていて、音の位置を細かく確認しながらミックス作業をしています。アトモスのミックスができるパソコンのソフトがあって、それで自分でミックスされているアーティストの方もいらっしゃいます。でも、それが狙い通りにミックスされているかどうか、自宅で確認するのは難しい。スピーカーを並べるのは大変ですからね。社内のスタジオだと、しっかりチェックできるんです」

ユニバーサル ミュージックのスタジオには通常の倍近いスピーカーが配置されています。これまでレコーディング用とマスタリング用に使っていたスタジオをドルビー・アトモス対応にしました。つまり、これまで通り2チャンネル(ステレオ)でマスタリングした後、「ドルビー・アトモス対応のミックスにしたい」と思えば同じスタジオで作業することが可能です。ドルビー・アトモス、ステレオ・ミックスどちらの音源の試聴も気軽にできる環境なのです。

ユニバーサル ミュージックのドルビー・アトモス スタジオには、部屋を囲むように15個ものスピーカーが配置されています

ドルビー・アトモスが音楽シーンに与える影響

海外の状況を見ていると、現在、世界的に音楽シーンでドルビー・アトモス化の流れが進んでいるのは間違いないようです。これからドルビー・アトモスが音楽シーンに与える影響について、高木はこんな風に語ります。

高木「今後は空間を意識してレコーディングすることが重要になってくると思います。アーティストにとっては表現の領域が増えるんです。例えば、アトモス・ミックスを前提に制作したWONKの作品『artless』は、前もってどんな空間を作り出すのかを考えたうえでレコーディングに入っていて、アトモスの効果がアルバムに見事に生かされていました。アトモスは音楽の楽しみ方を広げてくれる技術。ミュージシャンの方にもリスナーの方にも、音楽の新たな表現として興味を持ってもらえると嬉しいですね」

鳥の鳴き声や小川のせせらぎを聞きながら、森の中で演奏しているような音響空間を作ったり、スタジアムで演奏しているようなヴァーチャルなライヴ盤を制作したり。いろんなアイデアでリスナーに新しい音楽体験をさせてくれるドルビー・アトモス。ちょっと聴いてみたい、と興味を持たれた方は、その楽しみ方を紹介した後編も、ぜひご一読ください。
[ Text by 村尾泰郎 / Photo by 杉浦 弘樹 foto.Inc ]

>> 11月28日公開予定の後編に続く

スタジオ&アーカイブ部の高木(左)/山田(右)