大切な音源を未来に残す「デジタルアーカイブ」
ユニバーサル ミュージックが、アーティストたちと作り上げた楽曲や映像のマスターデータ。これらは録音技術の変遷とともに、さまざまなメディアに保存されています。その歴史を遡ると、レコードの金属原盤、アナログテープ、デジタルテープ、ハードディスクーーそして、現在はクラウドにアップされています。
クラウド上のデータは99.9%失われることはないと保証されていますが、古いメディアに保存されたデータは永遠ではありません。保存メディアの劣化や再生機器の寿命により、作品のもととなるデータオリジナル・マスターの保存が難しくなる場合があるからです。そのため順次デジタル化し、クラウド上でのアーカイブを進めています。
音楽会社が継承するマスター音源
デジタルアーカイブの目的の一つは、資産保護です。ユニバーサル ミュージックの日本の前身である日本ポリドールの頃からのものなど1950年代からの作品を含むと、約39万点という膨大な数のマスター音源があり、温度や湿度の管理を徹底した倉庫で保管されています。商品として世の中に発売されているCDは発売後に国立国会図書館などにも保管されますが、マスター音源は、音楽会社がお預りしていることがほとんど。音楽会社の責務として音を守り継承するために、デジタルアーカイブに取り組んでいます。
過去の音源が最新のミックスで蘇る
もう一つの目的が、二次利用です。そもそもマスター音源には、言わば録音時の生データである楽器やボーカルなど複数のトラックの素材マスターと、ステレオの2チャンネルにまとめた製品のマスターがあります。以前は、CDやレコードなど収録できる媒体の情報の量にも限界があり、素材マスターのクオリティを再現することはできませんでした。しかし現在は、CDよりも圧倒的な情報量を持つハイレゾ音源や、立体的な音響を楽しめるドルビー・アトモスなど音のクオリティを楽しむ技術も誕生し、素材マスターの音や臨場感をこれまでよりも再現できるのです。マスターデータが残されているので、本来アーティストが伝えたかった録音時の最高音質で楽曲を聞くことができるようになりました。いわゆるリマスター版です。また、過去のマスターがアーカイブされていく過程で未発表だったトラックが発見されたり、Dolby Atmos Mixで生まれ変わると、従来は聞こえなかった音が聞こえたりすることがあります。マスター音源はアーティストにとっても、さまざまな形で音楽を楽しんでいただくために音楽ファンにとっても大切にされています。
マルチトラック録音は、古くは1960年代の英・アビーロードスタジオで始まっています。2022年発売の「ユーミン万歳!~松任谷由実50周年記念ベストアルバム~」はドルビー・アトモスに対応していますが、録音時のマルチトラックマスターが充実していたことで実現しました。
地道にコツコツ、デジタル化
実際どのようにデジタルアーカイブをしているのか、現場の様子をお見せしましょう。
某スタジオでは、専門スタッフが地道にコツコツと人手で作業しています。倉庫からアナログテープを取り寄せるとまず、熱処理作業をします。約50℃の専用窯にアナログテープを入れて乾燥させ、磁気テープをきれいにしてから、テープマシンにかけてデジタルデータ化し、クラウドにアップしています。
デジタルアーカイブの担当者はこう語っています。「地道な作業ですが、リマスターによって楽曲に新しい発見をもたらし、ファンの方に楽しんでもらうためにも必要な作業だと考えています」「デジタルアーカイブは大げさかもしれませんが、文化をつないでいく仕事。日本から世界に音楽を発信したり、発表されている楽曲やアーティストから影響を受け、新しいアーティストが誕生するという循環に不可欠な仕事です。アーティストから預っているマスター音源を守り未来につないでいきたいです」
何十年も前の過去の楽曲を当たり前のように良い音で聞くことができるのは、マスター音源が大切に保管されてきたから。大切な資産を守り、音楽を後世に伝えることも音楽会社の重要なミッションです。